円は対ドルで約34年ぶりの水準に落ち込んでいる。日本の金利が米国を含むその他の国・地域よりもはるかに低い水準にあり、相対的に円の魅力が薄れていることが主因だ。日本の当局者が口先介入による円安阻止を何度も試みたものの効果はなく、4月29日には通貨当局が、より強い措置として2022年以来となる円買い介入に踏み切ったとみられている。
1. なぜ円はこれほど弱いのか?
円は年初から対ドルで最もパフォーマンスが悪い主要通貨の一つとなっており、下落率は10%を超える。その主な要因は、日米の金利差が大きいことにある。日本銀行は政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0-0.1%に維持しており、先進国の中で最も低い。米金融当局はフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.25-5.5%のレンジに据え置き、米国向け投資、ひいてはドルに有利に働きやすい大幅な金利格差が生じている。米国の予想以上に力強い経済成長と根強いインフレ圧力を背景に米金融当局による利下げ観測は後退しており、日米金利差は当初の想定よりも長く維持される可能性が高い。
2. 円は弱いままなのか、あるいは反発するのか?
それは金利差の動向に大きく左右されるだろう。米金融当局が利下げ開始を先延ばしする中、日銀の植田和男総裁は、基調的な物価のトレンドが改善すれば追加利上げを実施する可能性があると述べている。ただ、植田総裁は、当面は全体的に緩和的な金融環境が継続するとの見方も示しており、急速あるいは大幅な利上げが実施される可能性は低い。つまり、円は反発しても限定的な動きになりそうだ。日銀は6月13、14両日に次回の金融政策決定会合を開く。
3. 日本経済にとって弱い円が意味することは?
一般的に円安は、グローバルに事業を展開する日本の大手企業にとって支援材料になる。海外の利益を本国に送金(リパトリエーション)する際に円建ての価値が増すためだ。また、通貨安は、訪日観光客の購買力向上を通じて観光業界を押し上げる効果もある。日本では桜の開花が早まったこともあり、3月に記録的な数の観光客を迎えた。一方、円安はエネルギーや食品の輸入価格上昇につながるため、消費者には打撃となる。連合によると、今年の春闘の賃上げ率は33年ぶりの高水準となった。インフレ率を上回る賃金上昇が、消費者の購買意欲を高める可能性もある。岸田文雄首相は6月に予定される一時的な定額減税も消費者心理の下支えにつながると期待している。
4. 日本の通貨当局による円買い介入は?
4月29日の取引で円が対ドルで1990年以降初めて1ドル=160円台に乗せた後に介入とみられる措置がとられた可能性が高い。その後、円が急激に回復する局面があり、当局が再度介入に踏み切ったとの臆測が市場で広がった。財務省は介入に関するコメントを控えたが、日銀が翌日に公表した5月1日の当座預金増減要因の予想値と市場の推計値をブルームバーグが分析したところ、円買い介入が実施された可能性が示唆されている。
5. 日銀の次の一手は?
ブルームバーグが実施したエコノミスト調査では、次の日銀による利上げは10月会合になるとの回答が全体の41%を占めた。日銀は、力強い賃金の伸びが個人消費の押し上げにつながるかどうかを見極めるため経済指標の分析を進めている。そうした状況が確認されれば、追加利上げに踏み切りやすくなる。賃上げに刺激された内需の底堅さが、需要主導のインフレを持続可能なものにしていると主張できるためだ。賃金上昇にもかかわらず消費が回復しなければ、景気の勢いが失われ、追加利上げの正当化は難しくなるだろう。
Source: From 野原良明, Bloomberg QuickTake, https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-05-01/SCRGKIT0G1KW00